++SSS(サガ→ラダ←カノン)++

*注意:サガはラダが嫌いです。でもカノンはラダが大好きです。そのうちサガもラダが好きになります。
そしてラダはどっちも嫌いです。そういう(馬鹿)話です。

+現状に至るまで+

1初期
聖域の夜は暗い。女神の帰還後、ようよう近代化に着手されたものの電力は主だった施設のごく一部にしか供給されず、また住まう人間もいまだに蛍光灯のスイッチよりもマッチを探す。或いはそれは昼夜絶えず灯される神殿の篝火を埋もれさせぬ為かも知れぬ。闇に浮かぶ女神像は美しい。だがしかし聖域の夜が暗いことには変わりない。カノンは皮肉気に口元を歪めた。悲しむべきかな、もっとも女神を称えるべき者共には闇も炎も力を為さぬのだ。足元すら定かではない闇夜であるのに、佇む兄の存在はおろか、姿までもがまるで日の下にあるかのように鮮烈にして苛烈。
衣擦れの音ひとつなく、組んだ腕を解き一見無防備に岩に寄りかかった男は問うた。
「…どこへ行く、カノン」
「いちいち誰ぞに申告する義務などあるのか」
「この、私にすら言えぬと?」
類まれなる美貌、神をも恐れぬ力、しかし思考は凡庸か。およそ意外性というものからかけ離れた安い台詞に、カノンは薄く笑う。
「言えないのではない、言わぬのだ」
「どうしてお前はそうなんだ。アテナに申し訳ないと思わんのか」
「とってつけたように引き合いに出しおって、貴様こそ申し訳ないと思え」
およそ理想的な弧を描く形良い唇も、紡ぐ言葉の陳腐なざまにさぞ嘆いていることだろう。兄の横をすり抜け、カノンは足音も立てずに闇に消えた。



2中期


さて真打は遅れて登場するべきか、それも有難くないことよとげんなりしながらラダマンティスはグラスの中身を水にすり替えて招かれざる客に差し出した。 その瞬間にも扉を隔てて騒々しく廊下を駆ける数人の足音が近づいてくる。取り次ごうとする部下の悲鳴染みた制止も空しく、物理的な鍵のかからない古めかしいドアは派手に軋みつつも従順に開 いた。まず現れたのは白い両手、冥界では見慣れぬ法衣に女神の象徴を刻んだ宝飾品、神々と遜色劣らぬ美貌の男。しかしその美貌も台無しになるほど眉間に刻んだ皺は深く口元引きつり目つきも鋭い。そして幾里を駆けてきたのか荒れた呼吸に赤ら顔。ラダマンティスはちらと横で酔い潰れる男を見やる。なるほど双子、無様な姿も瓜二つである。
「うちの愚弟がお世話になっているな、ワイバーンよ」
好きで世話をしているつもりはないのだがな、と訴えたくとも聞き耳持たないのもまたこの双子、諦めてラダマンティスは泥酔する男を示す。男は水の代わりに、ラダマンティスのグラスを奪って酒を継ぎ足し、盛大に呷っていた。酔っ払いとは思えぬ早業にラダマンティスはずきずきと痛むこめかみを押えてしっしと手を振った。
「…早急にこれを連れて帰ってくれ」
しかしどこにそれだけの体力が残っていたのやら。それを聞いて飛び起きた男は、勢い余ってスツールごと引っくり返り、呆れる二人の前で器用に受身をとった。 腐っても聖闘士である。男はふらふらと定まらない足でふんばって、偉そうに腕を組んだ。
「俺は行かんぞ!話はまだ終わってない!」
いやもう帰れお前、と思わず口をついて出た。何を言われるかと双子の兄を伺えば、その通りと深々と同意している。味方というにはあまりにも心許無いが、今この瞬間の利害だけは幸いなるかな、一致しているようだった。
「いつまでも人様の家に上がりこんでるんじゃない。帰るぞ」
「俺の帰る場所はここだけだ、ラダマンティス…」
兄の存在を清々しいほど抹消しきった弟は、ラダマンティスにしな垂れかかる。ラダマンティスは無言で男の頭を引き剥がす。酒臭い吐息の不快な事、怒りに震える双子の兄にどう伝えてくれようか。いや、聞く耳など無いのだった。へばりつく酔っ払いを無駄な労力を費やし て引き剥がし、言いたい事は兄に言えと招かれざる客に放る。すると、そうだぞカノン、と気味の悪いほど猫なで声。聖域はこの声に騙されたのかと思えば感慨深い。せいせいした、と酔っ払いの為に用意し拒否された水に手を出したラダマンティスは事態を静観することにした。
「貴様に言うことなどあるものか!」
「…私に言わずに誰に言う?心配したぞ、カノンよ」
「黙れ、似合わぬ遠出なんぞしてないで聖域に引きこもっているがいい!」
ぱきんと何かが割れる音がした。 床にぱらぱらと何かの破片が落ちる。何かと思えば、宝飾品が握力に負けた結果のようだった。或いは女神の加護が妬心に負けた結果かも知れない。男は腕の中に弟を捕まえたまま、ゆらりとこちらに向き直った。目が据わっている。背筋に寒いものを感じて、ラダマンティスは後ずさった。
「…憎い…、憎いぞワイバーン!!」
「……帰れ。三秒まってやるからとっとと帰れ」

3末期
「なあワイバーンよ」
「……なんだ」
やはり双子とはこういうものなのかとラダマンティスは嘆息した。 転がる酒瓶の請求書はどこに出せばいいものやら。飲んだくれてる男の顔も、愚痴愚痴と戯言をぬかすその声も、内容も飽きるほど繰り返されたものでもあるにも関わらず、別個の存在であるという事実にラダマンティスは若干混乱した。
「カノンときたら口を開けば罵詈雑言、立ち居振る舞いは粗野で品性の欠片もまるでない。良いのは顔だけだと思わないか」
同じ台詞が同じ顔から放たれたのははて何時の事か。趣味の悪さまで遺伝しなくともよかろうに、それでいてこの美貌、ああまったく親の顔が見てみたいものだ。ラダマンティスは沈黙する。それが良策である事を同じ顔の男から嫌というほど学ばされた故だ。
「ワイバーン…いや、ラダマンティス…。あれのどこがいいのだ?」
「敢えて言うなら貴様ら二人が嫌いだ」
「そう言う割にはカノンと私では態度が違うではないか!」
帰ってくれ、頼むから。ラダマンティスは悲愴そのものの面持ちで、血を吐くようにそう告げた。
 

 

 

+兄+

生憎、と翼竜は言った。
俺の主はどこぞの女神と違って謀反する気も起きんし無論それを許すほど俺が寛容であるはずもない。
あのお方の意志に背く者、その血、その肉が誰の物であるかを忘れた者、それ即ち罪過にして背信なり。
ましてや貴様のような唾棄すべき裏切者、彼の女神の温情に縋りなお隙を窺う愚か者、どうしてそんな貴様とこの俺が同じ大地に並びたてようか。

だが、と弱々しく双子の片割れは口を開いた。

お前はあれを殺したではないか、私とあれとどう違う、あれを認めたではないか!

 

+弟+

お前の目に映る俺の姿はさぞ卑小で取るに足らないものなのだろう、とカノンは毒づいた。
なああの男は俺と違って賢しかろう、冥府の闇より引きずり出すほど素晴らしい出来栄えなのだろう、比べてどうだ、この模倣品のみすぼらしさよ!
延々と続く愚痴のような自嘲を遮ったのは少しばかり人間的過ぎる声だった。
「所詮は双子か」
珍しく彼は苦笑していた。微笑ましいものでも見るような、穏やかな顔だった。
それはカノンの嫌う台詞である。
文句の一つや二つ、出来る事なら死の制裁を加えたいところであったが、翼竜の希少な表情をただ呆然と見つめているカノンの手に牙はなく、そうして翼竜が立ち去るのを見送るしかなかったのである。
 

 

*戻*

 

サガラダに餓えてます。
(060217

 

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