■黄道十二宮#12■
アンゼリカ(http://title.sweetberrykiss.com/)

*黄金メイン短編群。射手・山羊・魚は同設定。後は繋がり有るような無いような*

complete!
 

01 夢見る牡羊座
「昔の話ですけどねぇ、幽霊なんて非科学的なモノが存在するはずがない、なんて言い張る聖闘士がいたんですよ」
貴鬼は師の後を追う。師の歩みは迷いを知らない。彼の前には亡霊すら道を開ける。
「さて今はどうか、そんなことは知りませんが」
無謀にも飛び出してきた亡霊を、彼はわずらわしげに軽く腕を振って退けた。
「世界はそんなに人間に甘くはありません」

02 怒れる牡牛座
アルデバランは時々悩む。そして憤る。おかしくはないか、おかしいではないか、どうしてこんな。しかし彼は沈黙する。おかしい、それは事実。ここ最近の聖域ときたらどうだ、世界各地の様子ときたら。
前はこうではなかった。では前の方がよかったか?アルデバランは否定する。そんなことはない。聖闘士候補の死亡率は右肩下がり、国政介入もまた巧み、聖域の権勢は増すばかり。素晴らしい。素晴らしい功績だ。
それでもアルデバランは悩む。聖域は恒久に在るべきものだ。一時の権勢を誇ってよいものか?だが力を持たぬ存在が世界に何をもたらせよう。
アルデバランは時々悩む。そして憤り、結局沈黙する。

03 双子座は仲良し?
いらぬ弟分はやたら沢山出来た。反抗心が強くなかなか手を焼くが、中には妙に懐いてくるのもいてそれなりに可愛い。カノンは肘掛に肘をつき傲慢な仕草で弟分を手招きした。かつて同じ勢力に身を置き、また同じように追放された少年は、戸惑いながらも従順に足元に跪く。カノンを見上げる大きな目はまるで命令を待つ飼い犬のようで、虚栄と嗜虐を同時に満たした。この従順さがたまらず良い。聖域の糞餓鬼共とは雲泥の差があるではないか。
少年は、海龍、とおどおどしながら呟いた。続きを目で促せば、口ごもって悄然と俯いてしまう。カノンには少年が何故そこまで怯えるのかが分からない。脅しているつもりはまったくないのだが、権力故というなら困ったものだ。誇るような権力など一つとして持ち合わせていないのだから。
カノンはつと指を伸ばす。傷跡の残る頬を撫でると、少年は身じろいだ。大人ぶろうとして子供じみてしまっている少年に残るその傷は、なまじ少年の顔立ちが整っているために痛々しい。
消せるだろうか、とカノンは盛り上がった肉を人差し指で辿りながら考える。やって出来ないことではないだろう。眼球の再生は望むべくもないが、傷跡ぐらいならば。
その思考はカノンに新鮮な驚きをもたらした。何故少年の傷を完全に癒してやらなかったのか。
どうせ治療はしていたのだ、そう手間でも無し、自身が消耗していた訳でも無し、完治させてやらなかったほうが不思議だ。消す必要はなかった。だから消さなかった。それだけだろうか。少年とカノンの皮肉な共通点は、いくつかの判断に確実に影響を与えている。カノンは消したくなかったのだ。何と断定することのできない何かを。
傷跡から滑らかな頬へ、顔を良く見ようと頤に指をかけると、少年は困惑もあらわに眉根を寄せた。
「どうした」
「どう、って」
「そう怯えるな。とって食いはしない」
「べ、別に俺は…」
怯えてなんかいない、と小動物そのもののような目でそんなことを言う。縮こまった体に弱りきった表情、弱者に免疫のないカノンが嫌味たらしく上司ぶるにはやや分が悪く、また眩しいものでも見るような、羨望と諦めの目には覚えがあるだけに無碍に扱うことも出来ぬ。
自分なら、とカノンは捨てたはずの過去を振り返る。どうして欲しかっただろうか。拾い上げてもらいたかったのか、いっそ見捨てて欲しかったのか。捨てられた結果に得たものがこれだとしたら、なんと皮肉なことだろう。カノンは極々わずかな点において兄を凌駕したのだ。両腕に余る子供を拾い上げ、従順に育て上げ。人間らしい機微を兼ね備えたこの兵器の出来栄え、悪名高きかの教皇に自慢できたらどれだけ胸の空くことか。
足元の少年を引き寄せるように腕をひけば、軽い体重が不可解な感情を伴って転がり込んでくる。膝の上でおずおずと身をよせる少年は甘えているようにも見えた。言いようの無い保護欲にかられてカノンは小さな身体を抱き込んだ。未完成な手が遠慮がちにカノンの金髪に触れようとする。振り払うことはしなかった。したくなかった。されたくもなかった。
最後の最後に見捨てる瞬間までは、カノンはこの子供達を守るだろう。そう、命にかけても。

04 蟹座の悩み
「…あーあーあ!めーいぃーめいめいめい!メシもってこいやオラァ!!」
「………はい」
ばくり。……。ぺっ。
「お前はそれでも蟹座かぁーーー!!!」
どがしゃあん!!ちゃぶだいがひっくり返る。
ぴくりと盟の身体が震えた。だが、それだけだった。彼は耐えた。必死で耐えた。
師匠が蟹座の心得なるものを得々と語りだしても心を無にして耐えた。すると、盟の無反応が癪にさわったのか、彼はいけ高々と説教を始めた。盟は強くなろう、と心に誓った。師匠は段々飽きてきたのか美味い酒シリーズパート3に突入している。盟はそろそろ眠くなってきた。ついでに腹もすいてきた。眩暈までしてきた。限界だ。
「盟!?」
慌てたような師匠の声を遠くに聞きながら、盟は倒れた。鬼畜を絵に描いたような師匠にも、少しは人を心配する心があるのだと思えばなんだか可笑しい。死ぬなら美味そうに肥えてから死ね、という声も聞こえてはいたが、自己防衛本能が聞かなくてもいいよと慰めてくれたのでさっくり聞こえなかったことにした。

05 臆病な獅子座
怖いんだ。すごく、すごく怖いんだ。
教皇が怖いんだ。聖域が怖いんだ。女神が、聖闘士が、人間が怖いんだ。
にいさん。どうしてだよ。どうして。
「グズグズ泣くんじゃないよ、ガキ」
蹲って泣く少年を少女は渾身の力を込めて蹴り飛ばした。
少年の初恋の瞬間だった。

06 乙女座は乙女か?
はにかんだ笑顔で女神はソレを差し出した。
「お土産ですのよ。受け取っていただけるかしら、シャカ?」
「私ごときにかようなお気遣い、勿体のうございます」
「皆に差し上げているのよ、遠慮なさらないで」
鈴を転がすような声で笑う女神から、耳のでかいゾウのぬいぐるみを受け取り、シャカはやわらかいそれをとりあえず揉んでみた。ふもふもしている。もっと揉んでみるとゾウは不満げに歪んだ。ゾウ、ゾウさん。ふもふもふもふも揉みながら、シャカはうわのそらで女神に感謝する自分の声を遠くに聞いていた。さて新入りの寝床はどこにするべきか。
冷蔵庫にはゴマアザラシ、バスルームにはペンギンの先住民がいる。電子レンジ…いや、大きすぎてはいらない。
ベッドの上にはお土産第一号の狸に似た化け猫抱き枕がのさばっている。シャカはベッドの半分を身を縮めて使っていた。最近どうにも肩腰の調子が思わしくなくて困っている。
まあいいか。シャカは両腕にゾウさんを抱えたまま、優雅に礼をして女神を見送った。そのへんに置いておけばいいだろう。
おっきな耳のねずみさん、腹の突き出た黄色いくまさん、おいしそうなダックさん。
大量のぬいぐるみは居住区を占領し、さらにその領土を拡大しつつあった。
処女宮を振り返りアテナは微笑した。クックックと悪人笑いで微笑した。それにとどまらず、仕舞いには仁王立ちしてそっくりかえり、ウワーハハハ!!と高笑いまではじめた。
あの生意気な聖闘士め。教皇が善だの悪だの、一目みりゃ分かることも分からない見ざる聞かざるあほ猿め。
私を敵に回したいのなら、ご希望どおりいびり倒して差し上げようじゃないの。
「土下座して許しを乞うがいいわ!」

崩れた柱の上にちょこんと居座るランプの精の横を、今日も今日とて雑兵達が目を逸らしながら足早に通り過ぎていく。
同輩の聖闘士達の軽蔑の視線は、乙女座の鋼鉄の心臓をもじわじわと錆びさせていった。
女神アテナの努力は、徐々に実りつつあるのかもしれない。


07 天秤座は嘘をつく
星矢は水曜日に城戸邸に泊まる。
青銅の中で一番付き合いが良いのは星矢である。
よって毎週水曜日夜九時にそれは始まる。おなじみ老師に聞いたアレである。
「むらさきかがみという単語を二十歳までに忘れなければ死んでしまうそうだ」
「中国人は決して蟹を食べない。蟹は川底の人肉を喰って育つからだ。…おのれ蟹!!」
星矢は生ぬるい笑みを浮かべて、コカイン入りらしいコーラを飲み干した。何時の話だ。
ファンタゴールデンアップルを購入した際にはうっかり千日戦争に突入しかけたこともある。
あえて否定も肯定もしないのは星矢なりの優しさではあったが、果たしてそれが本人の為になるかどうかは疑問である。

(ムラサキカガミ、一度横断歩道の白い部分を渡れば覚えていても大丈夫だそうですよ。…念の為/笑)

08 優しい蠍座
何度も何度も、彼は繰り返す。
「この世に幽霊などと非科学的なものは存在しない」
非現実的、と言わないのが彼の諦念で、正直者の一端だ。
まばゆいばかりの豪奢な金の髪、アイスブルーの涼やかな虹彩、強い日差しに透けるような白い肌。容姿も性格も実力も、嫉妬すら覚えるほど。友の前に立つと己の欠陥を厭というほど思い知らされる。カミュは憂いを隠せぬ目を伏せた。
「だが…聞こえる」
冷たい海の底、まだ幼い少年の声にならぬ声。聞こえぬ筈のないそれは最期の。
「死に価値を求めるな、だが生に期待をかけるな」
歌うように蠍座の黄金聖闘士は言った。それは師たる者へ訓告だ。同時に、彼が忌み嫌う文句でもある。明快な彼には似つかわしくない、意図の読めぬ台詞に、カミュは眉をひそめた。
「諦めろと?」
「お前の幻聴か、或いはどこぞに流れ着いたか」
そういう事だろうよと淡々と続けた親友の目に、疲れたような色を見つけてカミュは俯いた。困らせている。そして、これからも負担を掛け続けるのだ、自分は。
「ミロ、私はお前のようにはなれない」
「ああ」
「…楽観など出来ぬし、期待もしない」
「そうあるべきだ、我等は」
「それでも、幽霊などいない、と?」
「いない。絶対に」
彼は断言する。屈託のない微笑みは嘘ではない。彼は嘘は付かない。嘘だけは言わない。故にカミュは縋る。目を背けても。

09 射手座は笑わない
頭上から矢が雨あられと矢が降ってくる。小宇宙で吹き飛ばしたら、足元に穴があいて下から槍が。穴の淵に手をかけて飛び上がった瞬間に、人間より遥かにでかい大岩が転がってきた。
コンボ成功! テレレッテレー(SE)
デスマスクは絶叫した。
「笑えねえよ!何コレ!何なんだよこれ!」
「はっはっは!聖闘士たるもの常に技を磨かねば」
「うるせえ黙れ筋肉ダルマぁーーー!!」
殺すつもりで入れた飛び蹴りを難なくかわされる。思わず歯軋りしてしまったが、歴然とした実力の差はいかんともしがたい。デスマスクは作戦を変更した。即ち戦略的撤退、という奴である

10 山羊座は疾走中
シュラは呪った。世の中の色々なことや破天荒な同僚、ぶっ飛んでる後輩の事。だが何よりも頭のネジが外れてスクラップ同然の先輩達を心の底から呪った。
尽きぬ悪態を読経のように低く呟きながら、シュラは走った。走らなければならなかった。少しでも速度を落とせばおそらく床が爆発する。それ自体はさほど難題ではない。無傷で切り抜ける自信はあった。
問題はこの迷路の立地にあった。人馬宮真下である。こんな地下の狭い空間でこれだけの爆発物が一斉に起爆したら、地上はどうなることか。まず人馬宮は崩れるだろう。下手をすれば、十二宮全体に影響が出る。
一体あの馬鹿聖闘士は何を考えているのだ。基本的に尊敬しうる聖闘士ではあるが、時折あの2人は悪友達よりずっと性質が悪く思える。
ゆるやかなカーブを描いてきた通路に終わりが見えてきた。あの角を曲がれば、この地雷原は終わるだろう。次の罠が待ち構えているにしても、人馬宮を破壊する危険がない分精神的にはずっと楽だ。胸を撫で下ろした瞬間、ふと、背筋を這い上がるような悪寒がした。シュラはこれ以上進むのを躊躇った。向うからなんか嫌なのがくる。絶対くる。しかもあれは、あれは!
シュラは悪態をつくのをやめた。代わりに悲鳴のような怒号が口から飛び出した。
「引き返せ、デスマスク!!爆発する!」

11 恵みの水瓶座
お前は過敏にすぎる、もう少し余裕を持て。クールが聞いて呆れるぞ。
だらしなく寝そべって林檎を貪り食いながら言ってみた。赤毛の男は物言いたげにぴくりと眉を動かしたがその唇に反論がのせられることはなかった。これだから駄目なのだこの男は。そうら言ってみろ、いくらでも罵詈雑言ヒステリックに。出来ないだろうなぁと達観しつつも念のためマッチで火をつけてみる。指先でとんと突付けば、並々とアイスコーヒーの注がれたグラスは床の上でいい音を立てて砕けた。へらりと笑って謝罪すると、赤毛の親友は「…いや」と一言、眉間に皺を刻み念力でグラスの破片を宙に浮かべた。どうしようもない。
そういう話を親友の弟子にすると、少年は笑いもせずに相槌を打って煎餅を貪り食っていた。師と違う道を選んでくれたのはありがたいが、正直ちょっと駄目な方向に迷走しているようだ。俺はもういい加減全面降伏したい気持ちをこらえつつ、やっぱりマッチで火をつけてみて、後悔した。やめときゃよかった。
永久凍土からメタンハイドレート。生きても死んでも迷惑な奴らだ。

12 魚座は真実を語る
「…まあ、なんだな」
大変言いにくそうに、アフロディーテは切り出した。それはそうだろう、とデスマスクとシュラは白い目で友人を見る。この男は、こともあろうに2人を見捨てて一人で安全圏に舞い戻った裏切り者なのである。
こほん、とアフロディーテは咳払いした。
「あれは試作品だったそうだ。…危険なものはな、サガが幻覚で」
つまり早々にリタイアしたアフロディーテは幻覚から解放され、子供騙しの罠しかない人馬宮を悠々と抜けてきたと。ますます殺気立ち鋭くなる2人の目に、アフロディーテは気づかれないようにそっと汗をぬぐった。
そして天使のように微笑んで、唆したのである。
「無茶なことを考えるものだな、アイオロスは」
後の悲劇は起こるべくして起きたのかも、しれなかった。



 

 

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