++しがつのさかな++

 

フェニックス一輝。
彼には日付の感覚があまりない。ついでに地理の感覚もない。いつでもどこでも平然と現れるからだ。
しかしいらん所で勘はいい。ちなみに弟に関してではない。あれはもはや勘どころではなく彼の存在理由そのものである。
ではどう勘が働くのか。たとえばこんな時である。リビングに下りてきた一輝は星矢と目があった。一輝はなんとなく嫌な予感がした。星矢は満面の笑みを浮かべて近づいてきた。
「一輝!」
「……ああ」
一輝はそこはかとなく目を泳がせた。すると星矢を通り越した向こうにあるものを見つけた。そして一輝は、ふ、とかすかに笑みを浮かべ、星矢にどうした、と淡々と問いかけた。星矢は一瞬怯む。が、意を決したのか後ろ手に隠し持っていた物を一輝に差し出した。ピンクのチューリップの花束だった。そして彼は言った。
「弟さんを俺にください!!」
「お前が俺のものになるんだったら考えてやらんでもない」
「……い?」
「愛してるぞ、星矢」
「ごめんなさい嘘です許してください」
「分かればいい」
星矢はあえなく敗北した。その背後でカレンダーが風に揺れてぱさぱさと音を立てていた。



***



しょっぱなで失敗した星矢だったが、特に気にしてもいなかった。ささいな失敗で挫けるようでは、素手で岩を砕けるようにはならない。持ち前のガッツ精神とひょっとしたら女神の加護で簡単に復活した星矢は移動先で次なるターゲットを発見した。
ソファに寄り添って座る二人の人物。姉星華と瞬である。なんだか妙な取り合わせだなあと少し疑問も持ったが、どちらも人付き合いのいい、八方美人タイプだ。それに共通言語・ギリシャ語という強みのある青銅の中で一番とっつきがよさそうなのが瞬である。
そんなこともあるか、と星矢は疑問をあっさり片付け、さっくりと作戦に取り掛かった。
「瞬!」
「どうしたの?」
きょとんとして首をかしげる瞬に花束を突きつけ、決闘を申し込むかのように意気込んで星矢は言った。
「結婚してくれ!!」
ワンパターンである。
「駄目よ、星矢」
「姉さんは認めてくれないのかよ!?」
「違うわ。…あのね」
星華はぽっと恥ずかしそうに顔を赤らめた。ふと瞬を見れば、同じような表情をしている。少女めいた容貌をうっすらと上気させる様は、美人の星華と並んでも見劣りしない可憐さだった。
そして二人は手を取りあい、見詰め合ってはにかむように微笑んだ。
「……あの?」
何か入り込めない麗しい空間がそこにあった。
口火を切ったのは瞬だった。
「黙っててごめんね、星矢」
「な…何を?」
「いつか言おう言おうと思ってたんだけど」
「何を!?」
「実は僕たち、」
意味深に途中で言葉を切ると、瞬は星華の手にそっと口づけた。
もう、瞬ったら。星華のくすぐったそうな声が非常に遠く聞こえる。嫌がってる様子はない。くすくすと笑いを零す楽しそうな姉。数年振りの再会を果たしたばかりの姉。単身でギリシャに密入国する無駄に行動力のある美人の姉。そのくせあっさり記憶を失くした姉。一人で聖域にまでこれるくらいなら記憶喪失になんぞなっとらんでとっとと迎えに来て欲しかった。いや、別に恨んでたりするわけじゃないけど!ないけど!姉さん大好きだけど!その姉さんが、姉さんが!
「………っうわああぁーーー!!!」
星矢は思わず逃げ出した。

「……」
残された二人はふっと離れ無表情になるとシニカルに笑った。
「詰めが甘いなあ」
「まだまだね」



***


一方逃げ出した星矢の方だが。
「…ねえさんが、ねえさんが…年下趣味だったなんて…。しかも瞬かよ…。どっちが男役かわかんねえじゃねえかよ…」
さりげなく失礼なことを言いながら、中庭の隅で号泣していた。
「嘘だ…そんなの。でも瞬なら幸せに…ひっく、なれねえよ!一輝がいるんだぜ!?無理!無理だよ!」
ぐりぐり。チューリップを踏み躙る。めそめそしているうちに次第に怒りがつのってきたか、口調が荒くなってきていた。
「どうして瞬なんだよ。よりにもよって自分より可愛いの選ばなくったっていいじゃねえか!ジャ○ーズか、ジャ○ーズがいいんだな!?それもジュニアかよ!姉さんのばっかやろーーーーー!!!」


さて星矢は衝撃の事実にすっかり忘れていたのだが、当然この城戸邸には他の青銅聖闘士もいる。基本的に防音の整った屋敷ではあるが、彼らの聴力は星矢の悲鳴を聞き取るには十分すぎるくらいだった。

「…どう思う、紫龍」
「ありえないことでは、ない、が…」
「星矢が嘘をつけるような人種か?」
「いや。だがな氷河。何というか、微妙に星華さんは瞬の好みとは違うような気がするのだ」
「…瞬の好みってなんだ。兄貴か?」
「それはないだろう。あながち間違いともいえんが…。」
「……ああ…。」
「…うむ…。」
何故だろうか。有り得なさそうな組み合わせがかえって信憑性を持つのは。
「…どこへ行くんだ、氷河」
「厨房だ。祝い事には赤飯だと我が師から聞いたことがある」
「随分庶民くさい黄金聖闘士だな…。」
「お前に言われる筋合いはない!」




ペガサス星矢。
本日の勝負、2勝3敗。
 

 

*戻*

 


(050401)

 

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