++きのう++

 

時計の針が午前零時を突き刺した。少年はガラスを爪で引っかき、自身のため息の代わりに、日付変更線に白く傷を残した。
無表情である。
とりたてて険しい顔をしているわけでもなかった。だが彼はガラスに映る自身の姿に不機嫌を感じ取った。その姿に不快になった。唇が、すこしだけ震えた。それもまた、気に入らなかった。
少年は感情を封じ切れなかったことを恥じるように、二度と震えないように唇を引き結び、ガラスのふちを指でたどると留め金を見つけ出した。
留め金といっても、触れてわかるかどうかの僅かな突起だ。指で押し込めてくるりとまわすと、ギイ、と音を立ててそれは開いた。ゆれる振り子。精巧な細工。少年の背を追い越してなお物静かに佇む古時計は内臓をさらけ出したまま、ただただ時を刻んでいた。
少年は時計の針に指をかけ、力ずくで針を進めた。指に針が食い込み、赤く痕をのこす。
歯車の悲鳴が消えたころ、針は二時を五分ほど過ぎていた。
少年は慎重にガラス戸を閉めると、嘲るような表情で二時と五分の針を指でなぞる。さて、と彼は首を傾げた。
時間は戻ったのだろうか、進んだのだろうか。
どちらでもかまわない、と彼は思った。どちらでも変わらないだろう、とも思った。
つまるところ、彼は己の無力を知っていた。
 

 

>>きょう>>

*戻*

 


(050424)

 

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